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犬本番猫支度

Simple and Clean

行方知れずの私

いつの間にか、失敗したり傷付いた思い出をあまり引きずらなくなっていた。毎日のように思い出していた恥ずかしい記憶もいつの間にか忘れてしまっていて、思い出したくない思い出があったことだけが心の中で廃墟のように残っている。心の動きを止めることが上手くなったんだな、と思った。嫌な記憶が心の底から浮かび上がってくるときに心の動きを止めてしまうことで、私は辛い思い出もただの出来事として冷静に受け止められるようになっていた。私はいちいち心が揺さぶられてしまう時間をもったいないと思うようになった。私には悩んでいる時間がないんだ。

真冬の寒さが少し緩んだ気がして、そろそろ夜空に星が戻ってきて欲しいなと思ったけど、今日もやっぱり星は見えなかった。うっすらと白みがかり色味のない夜空。広がりの感じられないこの世界に、私は一人取り残されているような気がした。

嫌な思い出から目を背けても何も変わらなくて、私はまた同じ苦い思い出を経験することになるんだろう。感情を上手く思い出せなくなった私は、きっと同じような失敗からも新鮮な痛みを感じることができる。何十年経験を積み重ねても成長のない私の人生には、今もまだ失敗ばかりが連なっている。何度反省しても同じ失敗を繰り返す私には、上手く生き抜いていく才能がきっと欠けているんだろう、なんてことを思う。チュートリアルの段階で何度もミスをしているような感覚。同じアドバイスを何度も読んで、同じミスをし続けている。どれだけ知識を頭に叩き込んでも失敗してしまうんだから、きっと私はこれからも失敗し続けていく。

世間の人達は私より幸福そうだな、なんて見知らぬ人とすれ違う昼間は考えたりもするけど、夜空の下、私一人になると他人の存在は気にならなくなるのだった。月が見えない夜空には、誰かと同じ景色を見ているなんてロマンも感じることができない。

これは私自身の話だった。私の生き方について、私がどう感じているのかが私にとっての唯一の価値であるべきだった。幸福も不幸も、何も感じなくなってしまったら生きた屍だなと思う。失敗を心に秘めながら悶え生きていくことと、屍のように無表情で生きていくことと、どっちが幸せなんだろう? そんな臆病な疑問が頭に浮かんでしまい、ようやく私は少しずつ目が覚めてきたことに気付く。

鈍感になっていく自分に気付けたのは何度目だろうな。諦めてしまいそうになっている私自身にうんざりするけれど、同じ回数だけやっぱり諦めないとも思えたんだから今のところは五分五分だと思いたい。まだ私は自分をコントロールできているし、それなら私の生活にも価値があると思う。

こんな問答を繰り返していくことで、やっと私は自我を認識できているのかもな、なんて思った。