犬本番猫支度

Simple and Clean

過去を夢見ても

タイムリープはドラッグだ。過去は変えられないとわかっているから、過剰に過去に引きずられるのは意味がないしやめようと私は誓うけど、だからこそ過去を変える物語に強く憧れてしまうことがあった。過去を変えてハッピーエンドに巡り会う物語の主人公には憧れるし、晴れやかな気分にもさせられるけど、それは過去を変えられない自分の現実を思い出すまでの僅かな時間しか続かない。私の過去も変えられたらなあと願い積もっていく憧れは、私の過去を少しずつ煤けさせていった。これは昔の私の話だ。

「過去に戻って人生をやり直したいと思う?」という質問には、今の自分を否定する意味も含まれているから、私はいつも答えに迷ってしまっていた。今の自分に満足してるわけじゃないけど、自分を作ってくれたものに対して感謝する気持ちもあるから、簡単には答えが出せなかった。いやいやそんな真面目な話じゃないし、雑談だし、ってことで「高校生に戻ってやり直したい! 今度こそは上手くいくかもしれない!」なんてその場では言うんだけど、過去に戻った私はきっと今と同じ人生は辿らないだろうし、こうして話をしている相手とも出会うことは難しいんだろうなあと想像して、少し胸が痛んだ。

過去に戻って人生をやり直して掴んだ未来は、掴まなかったそれ以外の未来を捨てることでもあると思った。最愛の人を選ぶことは、出会った他の全員を裏切ることに等しい。これって残酷な判断だなと思うけれど、自分にとってだけ正しいことを実行できる力への憧れはとても強く、タイムリープに憧れる気持ちは密かに持ち続けていた。

そんな気持ちが高まったある日、タイムリープする能力に目覚める夢を見たことがあった。タイムリープする能力を手に入れた私は高校生に戻り、なんとか試行錯誤することで私が夢想していた未来に進むことができた。だけどその未来で私が掴んだ誰かもまた、別の未来を選ぶためにタイムリープする、というオチが最後に待っていて、そのショックで私は夢から覚めてしまった。自分が世界の主役になれる器じゃないことを思い知らされた夢だったけど、そのとき確かに、タイムリープして手に入れられる未来なんて所詮は夢みたいなもんだよなと私は実感したのだった。まさしく夢から覚めた瞬間だった。

過去に戻ってやり直せたとしても、その未来は私がやり直したかった世界とは別のものであるように思えた。やり直せば手に入れられるものに、きっと私は価値を見出せないだろう。今私が価値があると感じているものは、私が他の選択肢を捨ててそれを選んだからだった。だから平凡な物語の主人公である私が人生を楽しむとしたら、引き返せない選択の連続をせめて面白く選んでいくしかないのだろうなあと思っている。